現在 その片鱗を遺しているがシティー派の娘 かつては筋金入りの自然派だった 当然世のファミリーがこぞって訪れるピカピカの夢の国には見向きもしない 只管野へ山へキノコ探検 お散歩の定番である天皇陵や裏山 近場の御所や植物園 雨の翌日にはキノコの匂いで場所を見つけてしまう キノコは秋でしょ?なんて常識はこの際捨てなくちゃ 
春先の降り重なるふかふかの木の葉に埋もれた半身 それは紛れもない編笠茸 櫻舞う頃に増殖する木耳 半透明のグラデーションでゼリーみたいにプルプル 大いなる森の耳 緑蔭の木の根元に滴る真紅の舌はカンゾウタケ 一番驚いたのは冬虫夏草 土中の蝉や蜘蛛を菌糸が獲り込む セピアの蝉茸 黄昏色の蜘蛛茸 人間茸は未だ 晩夏のホラー 夕暮れの御所で出遭ったフェアリー・リング これこそ正真正銘のファンタジー 妖精のダンスのように木の子達が輪状に郡生 櫻の木に棲みついた万年茸はココア・パウダーみたいな胞子を飛ばす 
茸を摘んでは薔薇の花でも抱くようにうっとりの娘 導き手が仙人のような方だったから 弟子もやや人間離れ 茸への愛が嵩じて小学校ではちびっこキノコ博士と呼ばれるに到る 魅せられて神隠しにならないように後を追う カメラマン兼ボディーガードに徹するのみ
   
     くさびらの持ち上げてゐる春落葉   吟遊詩人